島袋道浩 「美術の星の人へ」@ワタリウム  

ずいぶん長く展覧会を見に行っていなかった。
以前は週末ごとに足を運んでいたのが、その時間をいわゆる生活的なものにうばわれはじめると、
生活に食われた時間の残りでうまく過去の自分が重きを置いていたものを見る、という行為をこなせる自信がなく、何かのバランスが崩れそうで、0か1かの0を選ぶようになっていたというか。

生きなくてはいけない生活のなかに、答えのないことが山積みになっていると、何かの拍子に自分を含め(というか主に自分の考える世界との関係みたいなものか)、いろんなものが致命的に変わってしまうんじゃないかという恐怖心があった気がする。
まあそんなことないんだけど、そういった変化がよい方向に向かうものだと思える楽観性が、自分には皆無だと思う。

そういうのって、とても臆病でつまらない人間になっているってことなんだろう。
よくわからないけど、もう少し気軽に食い止めてもいいんじゃないかと思い、見たい展覧会を見に行った。

言葉にすると、とても単純な欲求と行動なんだけど。

とてもとてもひさしぶりに、ワタリウムに行った。。
たぶん有馬かおるさんが参加していた、I love art展以来かもしれない。
なつかしい。

以前から好きな島袋道浩氏の個展。
今回の展示は、イタリアの陶器を使った展覧会に招待され、陶器で何か、ということでタコ壷を作り、それで実際に沖に出てタコを捕獲する! という映像作品(タコ壷を知らないおじさんたちも、引き上げたタコ壷からやっと、いやついに一匹でてきたタコに大興奮。最後は海に返してお別れ、のまぶしい作品)や、イギリス名物フィッシュアンドチップスの生まれたままの姿=じゃがいもさんがお魚さんに海に会いに行くという胸キュンかつほんわかシュールな映像作品に加えて、新作も展示。

「やるつもりのなかったことをやってみる」
美術館内に出現したゴルフミニ練習場の隣に、作家自身が自らゴルフを教わる映像が流れる。作者が「やるつもりのなかったことをやってみて」いるのを見ていると、何だか自分も「やるつもりのなかったことをやってみ」ちゃっている。
ついつい真剣に映像見ながら、覚えて、それこそ見よう見まねで挑戦。
スイングで汗ばんだ後、なにやってんだ、とくすりと笑ってしまいました。
ひとがおそわってるのをみておそわる、って何だか新鮮なんだけど、意外とすっとはいってくる。

屋上の作品は「象のいる星」。
ネタバレになるのでアレですが、外苑前の美術館の屋上で、わたしはたしかに象に会いました。
会ったというより、見つけました。
それは前からずっといたように、グレーの東京になじんでいて、「やっと気づいたの?」と笑っているようでもあり。

どの作品も、まじめなおかしさと、時に長く感じる現実の時間軸を保ちながら、日常の続きにほんわりとアートを出現させるしなやかさに、気楽に楽しめました。

その後、これまた久々のon sundaysで作品集をいくつか手に取る。
むかーし何かでレポートを読んで気になっていた「鹿を探して」の作品集もあり。

茨城県守谷町のアーティストインレジデンスで起きたこの作品の一部始終は、「鹿を見ませんでしたか?」と町を聞き歩く(自転車で)こと。
ロードムービーのようでもあり、探すと決めた以外の根拠を持たない自分発・フィールドワークのようでもあり。

いろんな場所に行って、その場の空気や力、過去、そして人や動物たちとなんの偏見もなく、そのままの自分で対話している軽快さと、そこに流れる差し引きのない時間に、とても安い言葉で言うと「あこがれ」てしまうんです。

結局、「鹿をさがして」の自家製本を買った。
9000円と少々お高かったけれど、その価値のある言葉と時間がつまっている気がしたから。

タイトルが決まった。「鹿をさがして」守屋で。
タイトルというのは時々、作品の説明なんかではなく、僕に速度と角度を与えてくれる。
(中略)

僕のやっていることは、ヒッチハイクに似ている。
百台の車が通り過ぎるのを見ながら、きっといつか一台の車が止まるのに賭ける。ヒッチハイクでは、同時に二台の車が止まるととても困る。ヒッチハイクの旅は、いつも一人分の太さの細くて強い紐のようなものを未来に伸ばしていくことだ。
そしてヒッチハイクは、車が止まると信じることから始まる。

(中略)

鹿はいつの時代のどんな町にもいて、森の奥からこちらをじっと見ている。
そして想像力と信じる力の方へ歩いていく。

たくさんのなかからたったひとつの何かをつかもうとする意志。
たったひとつの何かを信じる力。

その重さは、わたしたちに作品として届けられるときには、
ふわりと軽く、とても親しげな姿をしていました。


島袋道浩 展 : 美術の星の人へ         

会期     12月12日(金)2008年-3月15日(日) 2009年
        休館日:月曜日[12月15日、22日、29日、1月12日は開館]
        12月31日[水]-1月3日[土]は休館
        開館時間:11時より19時まで(毎週水曜日は21時まで延長)
入場料    入場料:大人1,000円 学生800円(25歳以下)
        (期間中、何度も使えるパスポート制)
主催     ワタリウム美術館