NHK「グーグル革命の衝撃」視聴記

「物足りない」「予告が煽りすぎ」などいろいろ書かれているようですが。

日曜の夜、仕事をはやく切り上げて、おいしいごはんをいただいて、万全の状態で見ました。笑。
詳細はいろいろなブログにとてもわかりやすく紹介されていますので、感想だけ書こうと思います。

日本の状況はあまりにリスキーで紹介できないのは分かるのですが、アメリカの状況に関してもちょっと情報が古いかな、という印象がありました。特にSEOの辺り。
かといって、初心者にはおそらく目が白黒な部分も多く、「上位15に入らないとあなたのサイトは存在しないも同然だ」というのはちょっと飛びすぎかと。まあ、ある種のキーワードに関してはそういえなくもないですが、もう少し下までなめるタイプの検索意図もあると思うので。
AdWordの事例として、さまざまなめずらしい花の名前ごとに、該当する花の種のAdWordsを出稿している企業も成功例として紹介されていました。単純にAdWordと相性がよく、分かりやすく事例ですが、Webに移行した契機や、従来の広告媒体から乗り換えるようになった潮流の背景を体験談としてもう少し大手の企業からでも聞きたかったです。
また、90万ドルの小切手をみせて微笑む、AdWordで生計をたてるアメリカの青年のエピソードは、やはり衝撃的ではあるのですが、アフリカの小さな国などでAdwordが生活を大きく変える、生きる稀有な手段になっているという、ウワサには聞くけれど想像も及ばない実例が見たかったです。
さてさて、番組後半にいくにつれ、気になったのは「この番組の制作意図」です。検索があなたの人生を変える、的な副題がついていましたが、むしろ「検索エンジンが世界の秩序、モラルを変える」的なニュアンスが流れはじめます。
シュミット氏が語るコメントでも「どんどんGoogleを使って個人情報を提供してください。そうすればよりいっそうの『便利』が得られます」といった部分だけが挿入されていました。
ここがテレビの落とし穴。1時間という時間内で構成を組み立てる上で、ドキュメンタリーにも関わらず「シナリオ」作成を焦りすぎてしまうのだ。取材の段階でそうなるのか、編集の段階でそうなるのか。それは制作者それぞれで違うのかもしれないけれど、明らかにシナリオが早急な印象を受けた
以前に見た森達也のドキュメンタリー番組で、街にでて一般の人の声を収集したいというディレクターに「コメントとるのなんて、予定調和だろ。希望通りのコメント集めて切り貼りするだけじゃん」的なことを言っていたのを思い出した。
なんて投げやりな言い方をするんだろう、と当初は思ったものの、これはある意味真実だ。そして、それはテレビに限らない。論文を書くときでもそう、何らかの法則を導くときでもそうだ。人は「手探りの暗闇」に弱いが故、はやくなにがしかの仮定をたてたがり、一度たててしまうと、口でいくら「仮説」といっても、どうしてもそこに吸い寄せられ、つじつまが合うように物事を見てしまう。
この番組でも、グーグルをひとつの脅威、今までのわたしたちの常識を超え、操作不能な新たな権力としてシナリオを組んでしまっている。

個人属性が知りたいのは、どんなポータルサイトでも同じだろう。インターネットに限らず、ニキビケア商品を訪問販売する人は、実際にあばたで悩んでいる家を事前に知りたいし、さらにちょうどスキンケアアイテムを切らしていて、そろそろ新しいのを買いたい状況の女の子の部屋のドアを叩きたい。人の弱さにつけこみたい新興宗教は、わらをもすがりたい上に潜在的に人を信じやすい人だけに出会えれば、より多くの信者を獲得できるだろう。
Googleの優れた点は、こういったともすれば裏側の事情まで、はっきりと言葉にして表現している点だと思う。同じようなことをみんな考えているものの、特に日本人は、警戒心を逆に強めさせてしまう結果になるだろうと、だれもその目論見を口にしない。amazonだって、「リコメンド、便利でしょう。あなたが購入している独特のAVチョイスセンスも、別の方へのリコメンドに使わせていただいていますよ」とはわざわざ言葉にして説明しない。
ただ、シュミット氏が言及したのも、「文脈上」であり、その言葉の前後にある流れを通せば、なるほどな、と思わせる論理展開だったのだろうと思う。そこがテレビ流にサンプリングされてしまい、非常に気の毒だなあ、と思う。

「あなたに関する情報を提供してくれれば」、この部分に視聴者がどれくらいの警戒心を抱くのかは未知数だ。わたし自身、便利と引き換えにと考えるとまだ答えが出ない。

長くなりました。この番組、グーグルジャパンの広報チェックは通したのかなあ。
でもまあ、わたしははっきりと言葉にするグーグルをさらに好きになりました。それにしてもやっぱり「Google Earth」はすごいよなあ。あの画面の動きをはじめてみて興奮しない人はいないだろう。まさに視覚に訴えかけるコンテンツだ。あとあれだ、求人看板。うますぎる。

ドキュメンタリーのさじ加減はむずかしく、イメージコントロールはたやすい。今回の教訓だ。