「ソラニン」浅野いにお

Soraninひかりのまち」に続く長編。
時代を象徴するような、ともすると奇抜な社会現象を取り去り、
あくまでも等身大の登場人物を描く作者初の試みです。
もうひとつ、「ひかりのまち」との大きな違いは、
主人公ふたりの世界ではなく、ありふれた周囲の人間関係をも描いていこうという姿勢

繰り返す悩みや迷い。別れや再生。諦めや執着。
慣れるほどに楽ちんになる日常への愛着と、それを時に壊したくなる衝動。
減っていく可能性を痛いほど認識したその先、
だから一層まぶしく感じていることを自覚している情熱。

これまで描かれていた子どもたちが、寸前まで追い詰められて抱いた切迫感。
それをゆるく交わして大人になった人たちの、「その先」の物語です。

追い詰められる機会を失った彼らは、自らそれすらも恣意的なんじゃないかという居心地に悪さを感じながらも、何とか自分自身への切迫感を課そうともがきます。

同棲1年の主人公のふたりは、音楽という夢を胸のなかに秘めつつもフリーターとして生活の間で揺れる男子と、どうやっても居場所の見出せないOL生活を辞め、貯金で食いつなぐ女子。

構図でいうと、「お茶の間」などでも脈々と描かれている、自分の夢とふたりの生活の間でもがく若者たちの縮図なのですが、本作のすごいところは、それを非常に平凡なエピソードと、丁寧すぎるほどに彼らの心情を表すト書きでなぞる点。
悩みの只中にいる彼らが、自らの感情の移ろいを確かな言葉で整理していく様は、不思議なリアリティを持って心に響きます。

好きな人が曇りのない笑顔でいてくれるだけを見返りなく望む気持ちと、あらゆるものを呑みこんでしまう、線として交わる自分自身への不安。

そんな狭間で揺れ動き、迷い、自分を、時に他人をも試し続ける若者たちの物語です。
感情に流されながらも、誠実に生きようとする彼らが、一体どこにいきつくのか。
時間をかけていろんな波を乗り越えていく様子を、ゆっくりと見守りたいです。
といっても気になる終わり方だしさ、早く続きが読みたい(笑)。